無謀キャプテン


無謀キャプテン 2 (2)
無謀キャプテン 2 (2)
posted with amazlet on 06.04.28
島本 和彦
徳間書店 (1999/06)
売り上げランキング: 1,112,785



 「無謀キャプテン」。その作者島本和彦氏の名前を見るだけである種の人
にはその作風とテンションは理解して貰えるだろう。だがある種の人じゃあ
ない人にも解って貰うために、ここで氏が描く漫画家漫画「燃えろペン」を
引き合いに出す事にしよう。そこでは名前からして燃えている漫画家炎尾燃
(ほのお・もゆる)が「スパークするマンガバカ」だとされている。それは
効果的な集中線を開発するためだけに大事にしているLDボックスを燃やす
ショックを体験したり、さらにはバイク炎上にさえ挑戦したりする。まさに
「体験はいい作品を生むからな」という岸部露伴にも並ぶ漫画家なのである。
そしてそれに倣って言えば、この「無謀キャプテン」は「スパークするバカ
マンガ」という褒め言葉が何よりも似合い、何よりもそれに合う漫画だろう。
その事はこの二部構成の漫画のあらましを聞くだけでも十分に解る事である。


 第一部ではその「キャプテン」堀田戌傑が柔道部のピンチヒッターとして
臨時キャプテンに就任し特訓を重ねるも、結局女子に油揚げを浚われるだけ。


 第二部ではサイボーグとエスパー少女と協力してきぐるみ宇宙人から星を
守るために戦う。特訓の成果も空しく孤立する堀田は、だが撃退に成功する。


 あるいは堀田とそれを見守るハギワラ先生が最初に人生を学びあう場面は
「紅茶に四つ砂糖を入れるかどうか」といったものである。勿論コレは甘い。
やってみたがった堀田自身飲み下す事なく吐き出して終いになるようなもの
である。だがそんなものにも挑戦する意気に、ハギワラ先生は「二十六にも
なるのに砂糖を四つ入れた経験がないのだ!」や「いつのまにか頭で考える
だけの頭でっかちな人間になっていたのかっ!?」と眼を覚ましてしまうの
である。さらには「たかが一瞬!!!その一瞬さえつかむことが出来れば…
五人倒すのにも たったの五瞬!!」とか言い出すテンションの連中なのだ。
はたまた第二部で登場する宇宙人は例のメソっぽくきぐるみの中に人を収納
するタイプの宇宙人なのだが、そうして中の人が宇宙人を操るのでもなしに、
ただ単に収納する。あるいは「サクサクッとして、キュッ」といったアレと
同じに収納された人がやめられなくなってしまったりする。堀田たちもその
チャックを開けて中身を「つまみ出す」訓練をズボンのチャックで訓練して
みたりする。勿論「中身」として人が入っているズボンである。全編こんな
具合で、広瀬康一のように「わ、笑っていいものか・・・」と迷わせるのだ。


 なお、この「無謀キャプテン」には雑誌連載直前の予告漫画というものが
ある。コレは「無謀キャプテン」の単行本には収録されておらず、島本和彦
氏の傑作選「炎の筆魂 弐之挙」に収録されている。それも解る内容である。


「きみは命を失っても負けたくないほどにくい
 やろうのために涙を流した事があるか!?」


「きみはいわれもなく裏切り者扱いされながらも信じる
  ものを最後までつらぬき通したことがあるか!?」


「きみは愛したものに完全に裏切られたたきのめ
  されながらも愛が消えなかった事があるか!?」


「こいつはそれをすべてこれから体験する!!こいつの
 名は堀田戌傑!!別名「自ら墓穴を掘る男」だ!!」



 ・・・とこうあるのだが、堀田が体験するのはこのうちのひとつなのだ。
コレは全く「ワンダービット」四巻の「クライマックスがお好き」である。
名場面だけ先に描いてしまって失敗するというヤツなのだ。だがそれでも
これらの漫画にハズレはない。読み始めれば、多分やめられなくなる。



 なお「ワンダービット」は復刊版もある。四巻の復刊バージョンはコレ。

ハルマゲドン失敗す
ハルマゲドン失敗す
posted with amazlet on 06.04.28
島本 和彦
エンターブレイン (2001/03)
売り上げランキング: 198,902